多様な学びを制度で支える~夜間中学の役割~

  • コラムを読む
  • 事例を学ぶ

投稿日: | 更新日:

  • #小西凌

夜間中学の制度と全国動向を整理し、不登校を含む多様な学びを支える役割を紹介します。

■ 夜間中学という「もう一つの義務教育」

近年、日本各地で夜間中学の設置が進んでいます。夜間中学は、さまざまな事情により義務教育を十分に受けられなかった人たちのために設けられた、義務教育段階の公立学校です。かつては限られた地域の取り組みでしたが、現在では全国的な制度として位置づけられ、不登校経験者を含む多様な学びのニーズを受け止める場となりつつあります。

夜間中学では授業が夕方以降に行われ、学習内容は通常の中学校と同じ教育課程に基づいています。公立の場合、授業料は原則無料で、日本の公教育の一部として制度的に保障されています。文部科学省の調査によると、2025年4月時点で夜間中学は全国で41都道府県・指定都市に62校設置されています。生徒数も増加傾向にあり、2024年度には全国で約1,969人が夜間中学で学んでいます。近年は、若年層や外国籍の生徒に加え、不登校経験をもつ人の入学も目立つようになってきました。

こうした増加の背景には、2016年に成立した「教育機会確保法」があります。義務教育の機会を保障するという理念のもと、「学校に通えなかったこと」を個人の問題として終わらせない制度整備が進められてきました。その具体的な取り組みの一つが、夜間中学の設置です。

■ 不登校を含む多様な学びを、制度で支える試み

2025年春、三重県にも新たな夜間中学が開校しました。三重県立みえ四葉ヶ咲(よつばがさき)中学校です。筆者の在住する三重県において、県立の夜間中学が設置されるのはこれが初めてとなります。開校に至る検討の過程では、筆者自身もごく一部ながら関わる機会があり、夜間中学の設置が制度整備にとどまらず、現場の課題や声を踏まえて進められてきたことを実感してきました。

みえ四葉ヶ咲中学校の特徴は、学びの背景や状況に応じて二つのコースを設けている点にあります。一つは、義務教育を十分に受けられなかった人を対象とする夜間中学コースで、修業年限は3年、最長で9年まで在籍できます。仕事や生活と両立しながら、自分のペースで学ぶことが想定されています。もう一つは、不登校の中学生などを対象とした学びの多様化学校コースです。週5日の通学を基本とし、昼間の学校になじめなかった生徒が、安心して学びを継続できる環境が整えられています。

夜間中学は、単に「昼に通えなかった人のための学校」ではありません。学びのかたちは一つではないという現実を、制度として示す存在です。夜に開く中学校の増加は、これまで見えにくかった学びのニーズを、社会がようやく受け止め始めたことの表れだと言えるでしょう。



まとめ

夜間中学は、昼の学校に通えなかった人のための特別な場ではなく、学びの形が一つではないことを制度として示す公教育の一つです。不登校や生活上の事情など、さまざまな理由で学びから距離を置かざるを得なかった人に対し、学ぶ権利をあらためて保障しようとする取り組みだと言えるでしょう。

三重県で夜間中学が開校したことは、学びの多様性を地域として引き受けていくための重要な一歩でもあります。夜間中学の存在を通して、「学校」や「学ぶこと」のあり方を、あらためて考えていきたいと思います。

Share

  • Xで記事をシェアする
  • Facebookで記事をシェアする

この記事を書いた人

小西 凌

三重大学大学院 地域イノベーション学研究科 協力研究員/一般社団法人ウネシャル 理事。

教育社会学・家族社会学を専門とし、不登校やヤングケアラー、子どもアドボカシーなど、家庭や学校に困難を抱える子どもをめぐる課題を研究しています。また、一般社団法人ウネシャルの理事として、学習支援や居場所づくりといった実践に携わり、夜間中学に関する取り組みにも関わってきました。研究と現場の双方の視点を行き来しながら、実践に根ざした知見の発信を行っています。