ヤングケアラーの“性別”をめぐって
- #小西凌
ヤングケアラーに潜む性別役割の偏りと、その構造的課題を問い直します。
近年、「ヤングケアラー」という言葉が広く知られるようになってきました。家族の介護や世話を担う子どもや若者の存在が注目される一方で、実態を丁寧に見ると、性別による偏りが浮かび上がってきます。
イギリスでは、ヤングケアラーの多くが女性であることが報告されています(1)。ヤングケアラーというと「介護」を思い浮かべがちですが、実際には家事やきょうだいの見守り、感情面の支えといった“ソフトなケア”が多いとされます。こうしたケアは「女の子の仕事」として期待されやすく、可視化されにくいため支援につながりにくい現実があります。
一方、日本ではジェンダーに着目した研究はまだ少数です。北山・石倉(2015)の調査では、ヤングケアラーに該当する中学生37名のうち、男子12名、女子25名と女子の割合が高いことが示されました(2)。家事援助やきょうだいの世話が女性に期待されやすいことを反映していると考えられます。けれども、兄弟姉妹間のジェンダー差には、これまでほとんど注目が向けられていません(3)。
現場で見えた小さな断片
筆者が子ども食堂で出会ったある家族では、母親が持病のため外出や家事を思うようにこなせず、家庭内での役割分担が自然と偏っていました。高校生の兄は放課後の部活動に多くの時間を費やしており、代わりに中学生の妹が母の世話や家事を日常的に担っていました。妹は生活の段取りを、当たり前のこととして静かに語っていました。その言葉の端々からは、家庭を支える責任感と同時に、まだ幼い年齢には重い“役割”を抱える現実がにじんでいました。それは個人の選択というより、無意識の期待や慣習によって“誰が担うか”が決まっていく現実を示していました。
支援の現場から社会全体へ
ヤングケアラー支援では、「誰がどんなケアを担っているか」だけでなく、「なぜその役割を担っているのか」を見つめ直すことが重要です。
女子ばかりが家事を担っていないか、家庭で“当たり前”とされていることが子どもの負担になっていないか――。こうした視点をもつことが、学校や地域での支援の出発点になります。
スクールソーシャルワーカーやカウンセラーが性別に中立な聞き取りを行うことで、見えづらい負担を拾いやすくなります。また、授業やホームルームで「支援を求めることは恥ずかしいことではない」と伝えることも大切です。
ヤングケアラーの問題は、家庭の事情だけでなく、社会の価値観や文化的規範とも深く関わっています。性別による役割期待の違いは、子どもたちが「自分らしさ」を発揮するうえで見えない制約になります。
誰かが無理をして支えるのではなく、支え合える関係が広がっていくこと。
それこそが、子どもたちの生活をやさしく変えていく力になるのではないでしょうか。
(1)Aldridge, J. (2018). Where are we now? Twenty-five years of research, policy and practice on young carers. Critical Social Policy, 38(1), 155–165.
(2)北山沙和子・石倉健二(2015)ヤングケアラーについての実態調査-過剰な家庭内役割を担う中学生-」『兵庫教育大学学校教育学研究』第27巻、25-29.
(3)Boyle, G. (2020). The moral resilience of young people who care. Ethics and Social Welfare, 14(3), 266–281.
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