“学級目標”と多様性~インクルーシブな学校園を目指して~

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  • #榊原久直

1. インクルーシブ教育の普及を巡って

さまざまな違いや課題を越えてすべての子どもが同じ環境で学ぶというインクルーシブ教育のマインドが学校の内外を問わずに広まりつつある中で,教育現場はこれまでの“当たり前”を問い直す必要性が生じてきています。
その中でしばしば議論されるのが,“学級目標(クラス目標)”の存在です。「子どもたち一人ひとりの多様性が尊重されるクラスにおいて,クラス全体の統一的な目標は不要なのではないか?」,「そもそも学校全体の目標も必要なのか?」,「そういえば変な校則がいっぱいある!」などなど,語りだせば熱がこもり,ついつい過度に批判的な意見が飛び交う場面がSNS上でも散見しています。

2. 学級目標は不要か?非インクルーシブか?

では,学級目標であったり学校全体の目標というものは,現在のインクルーシブ教育であったり,より広くインクルーシブな社会の実現に百害あって一利なしと言われるような存在なのでしょうか。
(これを家庭に置き換えるのであれば,我が家の教育方針・子育て方針,親の夢や期待はすべて邪魔なものなのでしょうか)
自分自身の学校生活や対人関係を振り返ってみてもらうと思い浮かぶ通り,それは“時と場合による”のではないでしょうか。別の言葉を使うと,「やり方による」とか「あのクラスの時は良かったけど,あのクラスの時は嫌だったな…」といった思いはないでしょうか。
ここではこうした差異がどうして生じるのかに着目し,学級目標・学校目標とインクルーシブ教育の共存・共生の可能性の1例を紹介したいと思います。

3. 誰がどれくらい尊重されているのか

所属する集団が掲げる様々な目標に対して,私たちが違和感や抵抗感を抱くのは,その集団としての目標ばかりが尊重されており,私個人の思いが尊重されていない場合,もしくは自分以外の誰かの思いばかりが尊重されていると感じる場合ではないでしょうか。まさにその瞬間,“すべての子ども”の中から私は除外され,非インクルーシブな状態が生まれてしまいます。
ただし,子どもたちは一人ひとりが尊重されるべきこころを持った存在であると同時に,現在進行形で発達の過程にある存在であり,また,社会や集団の中で生きる存在でもあります。そうしたことを踏まえた時,子どもの個別のこころを尊重することだけが大事なのではなく,その子の今の発達段階や発達課題にあった支援の必要性や,その子が共に生きる他者との関係性を育む支援もまた,欠かせない大事なものだといえるのではないでしょうか。また,そうした子どもの成長を願う大人側のこころも,子どものために押し殺されるべき不要なものではなく,共に生きる者として,尊重されるべきものではないでしょうか。

4. 共存・共生のための工夫

そうしたことを考えていると,子ども,他児や集団,大人(教師や保護者など)の誰もが同時に尊重され,共存・共生していくことが理想の形だと思われます。そのバランスを保つことは非常に難しく,また絶えず同じ比率にというわけにはいかず,揺らぎながらもトータルでバランスをとっていくものであると考えた方が現実的かもしれません。
そんなことに気づかせてくれた,京都市立柏野小学校さんの素敵な教育実践を紹介させていただきます。

そのクラスでは,教室の壁に,学校全体の目標(左側),クラスの目標(中央の大きな星とその下の説明文),そして子どもたち個々人の目標(上にある小さな星の一つひとつ)が並べて掲示されていました。そしてそれらは別々に独立してあるのではないようでした。学校全体の目標を全体の土台にしつつ,それを発達段階毎に落とし込む形であったり,そしてクラス全体を支える教師の願いを込めた形にしてクラスの目標が設定されていました。そしてそれらが子どもたちのこころから一人歩きして強制・強要されることがないように,こうした目標を受けて,子どもたち一人ひとりが自分のこころに合わせて(個々の発達状態や得意不得意,感じ方や考え方などに合わせて),自分なりの目標を考えるという風な,階層構造となっていました。
もちろん,こうした階層構造を形だけとればOKといった単純なものではなく,こうした目標をどのように(一緒に)作っていくのか,そこに込められた願いをどのように伝えていくのか,その実現をどのように手助けしていくのかによって,“尊重”具合や“共生/強制”具合は一変するものだと思われます。
ただ,こうした階層構造をイメージしたり,子どもと共に目標をつくり上げていく対話的で協働的なプロセスをイメージすることで,子どもと,集団・社会と,私たち大人の誰かが虐げられることのない,今よりもよりインクルーシブな関係性に近づくことができるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

榊原久直

京都教育大学総合教育臨床センター講師(学びサポート室担当)、臨床心理士・公認心理師

関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から,子どもや保護者,支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。