発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑲一人一人に必要な配慮を インクルーシブ教育~

  • コラムを読む

投稿日: | 更新日:

  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!
インクルーシブ教育は、単に多様な子どもたちが共に学ぶ時間と空間を共有する教育環境を提供するだけでは不十分です。果敢に取り組むモデル校の視察で感じたことを報告します。

「インクルーシブ教育」をご存じですか。障害のある子もない子も、一人一人が抱える課題に応じた支援の必要性「教育的ニーズ」に基づく合理的配慮を受け、同じ環境で学ぶ教育のことです。すばらしいことですが、やり遂げるのは簡単なことではありません。

小学4年生の美智さん(仮名)は「授業中に机の下にもぐってしまう」「給食を手づかみで食べる」といった行動を取るようになりました。大人の言うことをよく聞く、目立たない子だったのに、先生も同級生も保護者も驚いてしまいました。担任の勧めで、保護者が専門の機関に相談したところ、美智さんにごく軽度の発達の遅れがあることが分かりました。障害に気付かれず合理的配慮も受けられないまま、通常の学級で学ぶのはとても辛かったでしょう。

配慮が必要だと分かった後、どう対応するのが望ましいのでしょう。まずは本人の気持ちを聞かなくてはいけませんが、気持ちを言葉で表現するのが苦手だったり、周りの大人の期待に応えようと本音を言えないこともあるでしょう。保護者の願いも大切です。学校では、校内委員会で情報を共有し、障害への理解と配慮を担任に求めた上で、本人の様子をみつつ、通級指導教室や特別支援学級などの検討が始まるでしょう。国連は2022年、日本では障害のある子どもが通常学級ではなく、特別支援学級や特別支援学校で学ぶことが中心であると指摘。「分離教育」に疑問を呈しました。私は特別支援学級や特別支援学校で自信を取り戻した子どもをたくさん見てきたし、専門性の高さも信頼しています。日本のインクルーシブ教育を、今後どう発展させればよいのでしょう。

8月下旬、私は北海道根室市のある公立学校を視察しました。人口減少のため、在校生が少なくなりつつある学校です。子どもたちはルールに基づいて授業の中身や進み方を選べるし、修正もできます。障害のある子にも、ない子にも個々の時間割があります。集団の学びも、個別の学びもあります。先生方は総じて静かに寄り添っていて、元気な子どもの声が校舎に響いていました。教材の研究と準備は大変でしょうが、子どもたちが主体的、意欲的に動くのだそうです。運動会の競技は子どもたちが考え、地域の方々も招きます。ここでは、インクルーシブ教育が子どもにとどまらず社会も包み込んでいました。学校のチャイムが鳴り、子どもがつぶやきました。「あー、面白かった!」

Share

  • Xで記事をシェアする
  • Facebookで記事をシェアする

この記事を書いた人

小谷裕実

京都教育大学教授・学びサポート室長、博士(医学)、小児神経専門医

総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。