楽しい活動を通じた発達支援 ~読み書き支援としての“適当お絵かきゲーム”~

  • 教材を探す

投稿日: | 更新日:

  • #楽しい活動を通じた発達支援
  • #榊原久直

1. 楽しい活動を通じた発達支援を目指して

発達支援や療育活動、特別支援などの言葉から、皆さんはどのような活動をイメージされますか。子どもたちの苦手さに対して、なにか“特訓する”・“訓練する”といった修行のような活動を思い浮かべる人は少なくないかもしれません。また、実際にそのような取り組みがあり、それが子どもたちの能力の向上に寄与することもあるのですが、子どもたちの興味関心や意欲をセットで伸ばしてあげたい時には、できるだけ“楽しい”活動を通じて支援ができるに越したことはないのではないでしょうか。

2.「書き」の困難さを抱える子どもへの支援を考える

「就学を巡る保護者の不安~読み書きがまだできないんです~」の記事にて、子どもがひらがなの読み書きをするという行動を巡って、特に「書く」という行動には以下のような行動や能力、心の動きが含まれているということを紹介しました。

<書く活動>
 ・文字に限らず線や記号、絵などを描くこと/書くことへの興味関心とある程度の自信
 ・文字を書くことそのものへの興味関心があること
 ・(座って書く場合は)座位で姿勢を保持する力
 ・利き手で筆記用具を保持し、動かす手指の動き
 ・利き手ではない方の手で、紙やノートを押さえる動き
 ・文字の形を識別する力
 ・文字と音をマッチングする力
 ・50音を理解する力
 ・頭の中のイメージの通りに筆記用具を動かす力

これらの中で、おそらくひらがなを「書く」という行為の土台となるような部分として、1つ目に挙げた「文字に限らず線や記号、絵などを描くこと/書くことへの興味関心とある程度の自信」を育むことができるような活動の経験を積むことの必要性について考えていきたいと思います。

私たちが子どもの頃、文字を「書く」ということを学ぶ前に、そこに繋がりうるようなどんな遊びをしていたでしょうか。そこには「描く」という遊びがあったのではないでしょうか。ここでは特に、「かく(書く/描く)」ことへの興味や自信がまだ十分に育っていない子どもたちへの支援を紹介します。

3. 読み書き支援としての“適当お絵かきゲーム”

「かく(書く/描く)」ことへの興味や自信が低い子どもたちに、文字を書かそうとしても否定的な反応が返ってくることが多いと思います。また、いざ何かをかくとなると、上手くかけないという戸惑いや自信の無さによって、とてもではないけれども楽しめないという状態になり、その結果、かくことを巡る経験値が増えず、かくことへの興味や自信がいつまでも伸びない…という悪循環に入ることがあります。

そんな時には、“上手さ”や“正解”に問われる必要のない描画のゲームが役に立ちます。名称は地域によって異なりますが、皆さんは「適当お絵かきゲーム」という遊びをやったことはありますか。ルールや準備物はいたってシンプルです。必要なものは紙と筆記用具、もしくはそれらの代わりになるような物だけです。砂の上に枝で描いても構いませんし、磁気式お絵かきボードと呼ばれるような描画ができる玩具でもよいでしょう。

やり方としては、➀参加者はこれから描く絵のお題を1つ決めて発表します。②参加者全員は、それぞれの筆記用具を用いて、お題の絵や写真などを見ずに、記憶だけを頼りに“適当に”その絵を描きます。そして③最後に一斉に絵を見せあい、スマホやタブレットなどでそのお題の写真やイラストなどを見ながら全体で品評会を開催します。その際、批難や指摘はできるだけ行わず、良い所を褒めるような形で、自他の絵を品評するようにルールを設けても良いかもしれません。

お題の例:子どもの好きな動物や乗り物/子どもの好きなゲームやアニメのキャラクター

4. 遊びをより盛り上げ、経験値を増やすための工夫

この遊びの良い所は、ある種のゲーム性や勝ち負けがありつつも、“上手さ”そのものが必ずしも重要ではないという点にあります。あくまでも楽しいやりとりを通じて、書く/描くという経験を積むことが目標になりますので、何度も楽しめるような工夫やアレンジはどんどんとしていきましょう。

<工夫の例>
・採点すること…“どこが良かったのか”を具体的に褒めて自信をつけてあげる
・色塗りすること…色を塗る作業を通じてよりかく動作の経験を増やす
・お題の難易度の調整…子どもの興味をひくものという前提を残しつつ、お題を描く難しさを高めたり低めたりすることで、参加意欲を調整する
・描く時間に制限時間をつけること…時間内に描くというハラハラ感を演出
・一度だけお手本を見ること…自信がなく参加が難しい子どもや、イメージする力に困難さがある子どもが安心して参加するための合理的配慮として

こうした遊びを通じて、かく(書く/描く)ことそのものへの自信や意欲を高めつつ、こうした遊びを通じて、利き手で筆記用具を持って動かす経験、利き手ではない方の手で用紙を支える経験、頭の中のイメージに通りに筆記用具を動かす力の成長の機会などを、子どもたちが得ることをそっと支えることができるかもしれません。
大人が描く“上手ではない”絵や、“味のある・個性的な”絵が、子どもの自由な表現を刺激することを期待しつつ、ぜひ大人も全力で挑んでみてください。

<これは何の絵でしょうか? 作 長男>

~オマケの工夫~
書く/描くことへの自信のなさや抵抗感が薄まり、楽しみが増えてくると、自然とゲームのルールから離れて、自由に描きたいという場面に発展することがあります。そんな時はルールにこだわらず、自由な遊びの発展に付き添ってみてください。書く/描くことは本来、しなければならないものでも、させられるものでもなく、自分の想いや遊び心を表現するための手段なのですから。

関連資料
関連記事「就学を巡る保護者の不安~読み書きがまだできないんです~」や「楽しい活動を通じた発達支援~読み書き支援としての〇〇~」シリーズもご参照ください

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

Share

  • Xで記事をシェアする
  • Facebookで記事をシェアする

この記事を書いた人