就学を巡る保護者の不安 ~読み書きがまだできないんです~

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  • #榊原久直

1.就学を前にした保護者の不安

「来年には小学生になる…」それは保護者にとって、子育ての大きな節目が近づく時期であり、期待と充実感を感じる方もいる一方で、大きく変わる環境に不安を感じる人も少なくありません。この節目を前にした保護者の方との発達相談や子育て相談の中では、“字の読み書き”を巡る心配が語られることがあります。

「小学生=読み書きが必要」というイメージは多くの方が抱くもので、「就学する4月までになんとか読み書きだけでもできるようにしなければ…」と焦る気持ちを抱いている方も多いのではないでしょうか。読み書きを巡っては様々な教育の世界でも、また、子育ての世界でも考え方はさまざまであり、『ひらがなの読み書きは1年生の国語の授業で先生が教えてくれるから、何も焦って準備する必要は無い』という考え方もあれば、『いやいや、就学までに読み書きをマスターしておかないと勉強についていけない…』という考え方も、どちらも良く耳にします。そのどちらも間違えているわけではないと思いますが、子どもの成長や学びをサポートするという視点に立つと、このように正解がない子育てや教育の課題を前に、私たち大人側の不安や焦りが子どもの成長を歪めてしまうということの方が、実は子どもにとっては苦しい事態なのではないかと思うことがあります。

2.「読ませよう」「書かせよう」の呪縛から解放されよう

だから、不安や焦りを捨て去って、ただ子どもの成長を信じて待てばよい…、そう言われて心穏やかに待てるほど、私たち保護者の心はどっしりと構えられないと思います。ですので、私たちのこの不安や心配な思いを、子どもへの“圧”にするのではなく、楽しい活動を通じて無理なく自然に子どもの成長の糧にするための工夫を施す原動力へと変換することができればよいのではないでしょうか。

そのためには、まず私たちが素朴にイメージする、「読み書きを習得するためには、読ませないといけない・書かせないといけない」という発想から、疑ってみることにしましょう。私たちが幼児だった頃、もしくは小学1年生だった頃、ある時期に突然、文字を読み、鉛筆を握り、文字を書き、その活動に興味関心を持ち、読み書きができるようになったのでしょうか。おそらくそんなことは無く、それまでの様々な活動や体験を通じて、少しずつ読み書きに必要な技能や興味関心を育み・育んでもらい、その延長線上に読み書きの練習を始めたのではなかったでしょうか。

そうであったとすれば、私たちが子どもたちに読み書きができるようになってほしいと願う際、ただ単に読ませる・書かせるということを強いる以外に、沢山の他の選択肢があり、またそれらには成長や発達の流れ・順番があるのかもしれません。

3. 読み書きの練習のために読み書きを“分解する”こと

ではそもそも、ひらがなを読む活動や書く活動はどういった動きや能力、心の動きが含まれているのでしょうか。厳密にはもっと細かく分ける方法もあるのですが、例えば以下のように分けることができるかもしれません。

<読む活動>

 ・絵や文字など(絵)本そのものへの興味関心があること
 ・(座って読む場合は)座位で姿勢を保持する力
 ・本を支える手指の動き
 ・ページをめくる手指の動き
 ・絵から状況を読み取る力
 ・文字の形を識別する力
 ・文字と音をマッチングする力
 ・文字(単語)とその意味をイメージする力
 ・物語のストーリーを理解する力
 ・登場人物の心の動きを理解する力

<書く活動>

 ・文字に限らず線や記号、絵などを描くこと/書くことへの興味関心とある程度の自信
 ・文字を書くことそのものへの興味関心があること
 ・(座って書く場合は)座位で姿勢を保持する力
 ・利き手で筆記用具を保持し、動かす手指の動き
 ・利き手ではない方の手で、紙やノートを押さえる動き
 ・文字の形を識別する力
 ・文字と音をマッチングする力
 ・50音を理解する力
 ・頭の中のイメージの通りに筆記用具を動かす力

このように、読み書きと一言で表されている活動は、実に様々な活動や能力、意欲や自信の成長が絡み合ってようやく実現されているものであることがわかります。子どもの読み書き能力の成長を心配される場合には、まず、子どもが上記の項目のどれが現状でできるのか・興味関心を持てているのかということを確認してみましょう。そして、これらの中で子どもにとって苦手そうな項目、もしくはまだ意欲や自信を持てていない項目がある場合には、そこを楽しく経験できるような活動や工夫を提供するということを、目指してみるのはいかがでしょうか。

関連資料

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この記事を書いた人

榊原久直

京都教育大学総合教育臨床センター講師(学びサポート室担当)、臨床心理士・公認心理師

関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。