キャリア発達を「性」の視点から支援する⑦ ~「○か×か」で教える前に~

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  • #キャリア発達を「性」の視点から支援する
  • #門下祐子

筆者は、知的障害のある人を読み手の主な対象とし、「性」についてわかりやすく説明している日本と韓国の発行物(書籍や冊子)それぞれ2冊ずつの比較調査を行ったことがあります。
具体的には、発行物の内容について確認し、そのなかで「この行動/考え方は○、これは×」といった「性」に関する規範がどの程度扱われているかの調査をするというものです。

その結果、日本の発行物は、「性」に関するトピック(月経・マスターベーション・恋愛・セックス・子育てなど)を網羅的に記載していましたが、韓国の発行物は「恋愛」に焦点化し、パートナーとの関係性の構築などについて示していることがわかりました。

いずれの発行物も、「男性は女性が恋愛対象である」「女性は男性が恋愛対象である」といった「異性愛」を前提とした記載が中心であり、「同性愛」やその他の性的指向については記載がなかったり、紹介程度であったりしました。

そのうえで、日本の発行物のほうが、「(異性間での)恋愛→結婚→子育て」といった一つの固定的なライフコースを示しつつ、「この行動/考え方は○、これは×」といった規範にそった行動を促す傾向が強いことがうかがえました。

もちろん、「◯」「✕」が明確な行動もあり、それをわかりやすく示すのに有効であるともいえます。
しかしながら、わたしたちが生きていくなかで、
◆ 場面や関係性によっては、「この行動/考え方は○、これは×」だと、必ずしも言い切れないことがあります。
◆ 「一般的ではない/自分にとって不利益になるかもしれないとみなされることでも、自分としてはこうしたい」という思いをもつ場面もあります。

また、「○か×か」で教え込むことで、一見その場は成立するかもしれませんが、もしも「×」だとされる行動をとった際に、叱られることを恐れてひとりで抱え込んでしまったり、誰にも相談できず、より大きなトラブルとして可視化されたりする場合もあります。

これからキャリア発達を「性」の視点で支えていくうえで、こういった発行物を用いて学習していく機会があるかもしれません。
その際、各発行物の内容や特徴を把握し、背景にある考え方や規範について探っていくことからはじめましょう。

その営みも、キャリア発達を考えるうえでの重要な学びの一つとなるはずです。

関連資料
門下祐子(2024)韓国社会福祉学会2023年度韓国社会福祉共同学術大会 研究発表報告,
一般社団法人日本社会福祉学会 学会ニュース
https://www.jssw.jp/wp-content/uploads/news_95-02-02.pdf

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この記事を書いた人

門下祐子

京都教育大学総合教育臨床センター講師(学びサポート室担当)

特別支援学校の元教諭で、現場で課題意識が芽生え研究の道に入る。著書に「シンプル性教育 いっしょに話そう!くらす・はたらくに活かす「性」のこと」(一般社団法人スローコミュニケーション)。