楽しい活動を通じた発達支援 ~不器用さ、衝動性、社会性の困難さへの支援としての“手押し相撲”~

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  • #榊原久直

1. 楽しい活動を通じた発達支援を目指して

発達支援や療育活動、特別支援などの言葉から、皆さんはどのような活動をイメージされますか。子どもたちの苦手さに対して、なにか“特訓する”・“訓練する”といった修行のような活動を思い浮かべる人は少なくないかもしれません。また、実際にそのような取り組みがあり、それが子どもたちの能力の向上に寄与することもあるのですが、子どもたちの興味関心や意欲をセットで伸ばしてあげたい時には、できるだけ“楽しい”活動を通じて支援ができるに越したことはないのではないでしょうか。

2. 「不器用さ」、「衝動性」、「社会性」の困難さを抱える子どもへの支援を考える

子どもたちの中には、いわゆる体幹や姿勢を保持したり、力加減をしながら体の各部を連動させながら操作すること(協調運動)が難しい子どもたちがいます。また感情や衝動を自分でコントロールして活動を適切に維持することが難しい子どもたちもいます。加えて、他者の感情や意図を言語的もしくは非言語的な手掛かりから読み取ることやそれに合わせて自分の行動を調整することが苦手な子どもたちが居ます。ではそういった困難さを抱える子どもたちのために、学校園や事業所、はたまた家庭でできる“楽しい”発達支援的な活動として、どのようなものがあるでしょうか。
その具体的な一例として、今回は“手押し相撲”を取り上げたいと思います。

3. 「手押し相撲」と発達支援

手押し相撲はある程度のスペースさえあればどこでも手ぶらで遊べるローコストな遊びの一つです。立ち位置を定め、相手の手だけを押してよいというルールのもとで、相手を最初の立ち位置から動かしたり押し出したりできれば勝ちというシンプルでわかりやすいルールとなっています。では手押し相撲をする中で、子どもたちはどのようなことを体験することができるのでしょうか。
・自分の姿勢やバランスを保ち続けようとする体験
・相手の手の位置や動きに注意を向けながら、それに自分の手を動かして押したり引いたりする(目と手の協応)体験
・力加減を意識する体験
・自分の勝ちたい気持ちや押したい「衝動」を戦況に応じてコントロールする体験
・(言葉を介さずに身体的なやりとりを通じて)他者と交流する体験
・相手の様子を観察し、相手の意図や狙いを理解する対人理解に関わる体験
・相手の意図を意識した上で、その裏をかくといったより高度な対人理解に関わる体験

などなど、実は様々な成長に必要な体験を経験する可能性がこの遊びには秘められています。そのため、この遊びをする際に“大人側がこれらのことを意識的に取り組むことさえできれば”こうした活動自体が発達支援だと呼べる活動になります。

4. 「手押し相撲」をする上での一工夫

このように様々な体験を経験することができる手押し相撲ですが、上記の課題を抱える子どもたちからすれば、他の子どもたちよりもより難易度が高く感じられる活動でもあるため、特に姿勢保持の困難さを抱える子どもたちに対しては、難易度の調整や、安全面での配慮が大事になってきます。あくまでも一例ではありますが、紹介させていただきます。
・足の立ち位置のエリアを台状にするか、床にするかを検討すること
:立ち位置のエリアが台のようになっていると、OUTがわかりやすくなったり、ハラハラドキドキ感を増すことが可能になる反面、姿勢を崩した時の怪我のリスクの増加にもつながるため、周囲の物理的な状況や子どもの得意・不得意に応じて、台状にするか、段差のない床の上での実施にするのかを検討することが望ましい
・足の立ち位置のエリアの広さを調整することで、難易度を調整すること
:エリアを狭くすれば高難易度に、エリアを広くすれば低難易度にできるため、子どもの得意・不得意に合わせて調整したり、大人用のエリアを狭くするなどをして大人が本気で取り組めるようにすることができる
・足の立ち位置のエリアを視覚的に理解できるようにしてあげること
:フラフープやクッション、カラーテープの区切りなどを用いて、足の立ち位置のルールが明確になるようしてあげることで、わかりやすくするとともに、ルールを巡る言い合いを回避することができる
・作戦として“フェイント”や“強弱”、“すかし”といったアイデアを教えること
:体の操作が難しく、大きく・早く・強くでしか腕を使えない子どもたちに対して、自分の体を小さく・ゆっくり・弱く操作する経験を楽しく提供する
:自分の感情や衝動がたかぶってしまいやすく、攻め続けたくなる子どもに対して、自分の衝動や感情にブレーキをかける経験を楽しく提供する
・プレー中にこちらの考えていることや、子どものどこに着目して、どのように読み取ったのかということを言語化して伝えること
:相手の意図を理解したり、相手の意図を理解しようとする際にどういったものに着目するのかといったことを学ぶモデルを示したり、自分自身の振る舞いが相手にどのように映っているのかについて意識し、コントロールする経験を提供する

これら以外にも様々な工夫やアレンジをすることで、より多様な対象者に実施することができたり、様々な発達の機会を提供することが可能になります。ぜひ皆さんもアレンジ案を練ってみてください。

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

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