楽しい活動を通じた発達支援 ~視空間認知の困難さ、目と手の協応や不器用さ、不注意・衝動性への支援としての“折り紙”~

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  • #楽しい活動を通じた発達支援
  • #榊原久直

1. 楽しい活動を通じた発達支援を目指して

発達支援や療育活動、特別支援などの言葉から、皆さんはどのような活動をイメージされますか。子どもたちの苦手さに対して、なにか“特訓する”・“訓練する”といった修行のような活動を思い浮かべる人は少なくないかもしれません。また、実際にそのような取り組みがあり、それが子どもたちの能力の向上に寄与することもあるのですが、子どもたちの興味関心や意欲をセットで伸ばしてあげたい時には、できるだけ“楽しい”活動を通じて支援ができるに越したことはないのではないでしょうか。

2. 「視空間認知」の困難さを抱える子ども、「目と手の協応」や「不器用さ」を抱える子ども、「不注意」と「衝動性」を抱える子どもへの支援を考える

子どもたちの中には、目で見た情報を理解し、頭の中で整理したり、イメージを分解したり組み合わせたりするなど加工したりするということに困難さを抱える子どもたちがいます(新版K式発達検査における「認知・適応」が苦手な子どもたちや、WISCにおける「知覚推理」「視空間」が苦手な子どもたちなど)。また、何かを見ながら同時に体を動かしたり、体の各部をスムーズに連動したり、力加減を意識して細やかに手先を操作することが難しい子どもたちがいます。加えて、何かに持続的に集中して注意を向け続けることや、感情や衝動を自分でコントロールして活動を適切に維持することが難しい子どもたちもいます。ではそういった困難さを抱える子どもたちのために、学校園や事業所、はたまた家庭でできる“楽しい”発達支援的な活動として、どのようなものがあるでしょうか。
その具体的な一例として、今回は“折り紙”遊びを取り上げたいと思います。

3. 「折り紙」遊びと発達支援

折り紙は幼児期から子どもたちが日常的に経験しやすい遊びの代表例といえる遊びかもしれません。そしてその奥深さは果てしなく、子どもから大人まで楽しめるばかりか、職人芸といえるほどのレベルの作品まであり、バリエーションは無限大です。
では折り紙遊びをする中で、子どもたちはどのようなことを体験することができるのでしょうか。
・折り方の見本や完成図を見ながら、視知覚的なプロセスを意識する体験
・折り紙を操作しながら、現在の形から次の形を想像する体験
・折り紙を操作しながら、完成図からの逆算を想像する体験
・紙の操作に持続的に「注意」を向けて集中する体験
・紙を「目で見ながら体の他の部位を動かす」(目と手の協応)体験
・自分の「手指の操作」に意識を向け、それらをコントロールする体験
・時に難しい細かな手指の操作の中で自分の「衝動」をコントロールする体験
などなど、実は様々な成長に必要な体験を経験する可能性がこの遊びには秘められています。そのため、この遊びをする際に“大人側がこれらのことを意識的に取り組むことさえできれば”こうした活動自体が発達支援だと呼べる活動になります。

4. 「折り紙」遊びをする上での一工夫

このように様々な体験を経験することができる折り紙遊びですが、上記の課題を抱える子どもたちからすれば、他の子どもたちよりもより難易度が高く感じられる活動でもあるため、特に折り紙遊びへの興味関心がまだ十分に育っていない子どもたちに対しては、難易度の調整や、興味関心を引く工夫が大事になってきます。あくまでも一例ではありますが、紹介させていただきます。
・子どもの興味関心のあるキャラクターかつ難しくないお題から始めること
:折り紙遊びへの興味や自信がまだ少ない場合には、子どもの興味のあるものを作るという工夫によって、折り紙遊びへの興味を育てるというスモールステップが大事になります
・作り方の説明図を大きく拡大コピーしてあげること
:小さな図ではイメージを掴みづらい場合があるため、図を大きくしてあげることで理解しやすくすることができます
・説明図だけでなく、完成した実物を見本として提供すること
:図だけではイメージを膨らませにくい場合があるため、実物を用意し、それを実際に手に取って触ることで理解しやすくすることができます
・実際に折り方を実演すること、Youtubeなどの動画による折り方を見ること
:図だけではイメージを膨らませにくい場合があるため、実際にすべての行程を見せてあげることで理解しやすくすることができます
・一緒に同じ行程で折っていくこと
:上記の支援に加えて、一緒に大人が折っていくことで、興味関心を分かち合うとともに、子どもが困った際のヒントになったり、手助けをしてあげやすくなります
・完成した作品を大切に保管したり飾ったりすること
:できたという達成感や、それが他の人に喜ばれるという経験が折り紙活動への興味関心や自信を育むとても大きな後押しとなります

また、特に近年はYoutubeで子どもたちの大好きなキャラクターの折り方に関する動画が数多くあり、「折り紙 ○○」とった単語で簡単に検索ができたり「折り紙 ○○ 簡単」とすると難易度を下げられたりと、多くの資料が簡単に入手できます。さらには一時停止、巻き戻しもできる上に、完成した後には自分の好みにあった別の作品の作り方がおすすめされるなど、子どもの挑戦を支え、意欲を伸ばす機能があります。Youtubeといえば、現代の保護者や教師にとって否定的なイメージが強いツールではありますが、使い方によってはこうした発達支援の心強いサポーターになってくれるものでもあります。使い方や使用時間のルールだけ事前に確認と共有をしつつ、ぜひ効果的に活用してみてください。

これら以外にも様々な工夫やアレンジをすることで、より多様な対象者に実施することができたり、様々な発達の機会を提供することが可能になります。ぜひ皆さんもアレンジ案を練ってみてください。

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

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