発達に凸凹のある子どもの“自信”を育てるには? ~2種類の自尊感情を育む工夫~

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  • #榊原久直

1. 自尊感情(Self-esteem)を抱くことの大切さ

「自己の価値についての肯定的(または否定的な)な感情や態度」である自尊感情は人間が生きていくうえで非常に重要なものであり、精神的な健康や主観的な幸福感の高さに繋がっていることや、社会的な適応にも繋がっていることが明らかになっています。
また、我が国では、そのままの自分を大切な存在と思える感覚である「基本的自尊感情」と、社会の中で自分に価値があると思える感覚「社会的自尊感情」という2つの側面に切り分けて捉えることの有用さが近藤(2013:補足欄に詳細を明記しています)によって提唱されています。そして前者は活動や感情を他者とともに分かち合う体験、自分の興味関心に関心を持ってもらう体験によって育まれるものだとされており、後者は誰かから認められたり、褒められたりする体験や、比較される体験によって育まれるものだとされています。
(詳細は別記事「“自信”ってなんだろう?2種類の自尊感情を意識することの大切さ」をご参照ください)

2. 発達に凸凹のある子どもの「自尊感情」を育むことの難しさ

発達に凸凹のある子どもたちにおいても、他の子どもたちと同じく、こうした自尊感情は欠かせないものです。そればかりか、持って生まれた発達の凸凹によって、そうした困難さの少ない子どもたちと比べて、肯定的な対人経験や成功体験を経験しづらく、その反面、否定的な対人経験や失敗体験を経験しやすいために、どうしても自尊感情が育まれにくいというところが子どもたちの日常であったりします。
また、子どもたちの自尊感情の低下は、意欲の低下であったり、精神的な不安定さ、衝動的な振る舞いの増加など、様々な2次的な問題に繋がるため、ますます子ども自身にとっても、そして周囲の他者にとっても苦しい悪循環が生じていく傾向があります。
では、こういった困難さを抱える子どもたちに対して、私たち大人はどうやって2つの自尊感情を育む手助けをすることができるのでしょうか。

3. 発達に凸凹のある子どもの「基本的自尊感情」を育む工夫

基本的自尊感情を巡っては、まず、子どもに発達的な凸凹であったり、能力的な低さや遅れがあるという指摘を受けた際に、どうしても意識から抜け落ちやすい部分であるという点に注意を払う必要があります。子どものためを思ってのことではありますが、発達支援をするという行為そのものが、ある意味では“変えること”を求める行為であり、それは子どもの目から見れば“今の自分を否定される行為”として映る可能性が絶えず付きまとうものであったりします。そのため、子どものためや保護者のためによかれと思ってしている関りや支援そのものが、子どもたちの基本的自尊感情を低下させる関りとなっていないかどうかに注意を配ることが大事な一歩となります。言い換えれば、確かに行動や能力面で子どもの変化を促したいのは事実だとしても、ありのままの“その子”を肯定的に受け止め尊重するということを“同時”に行っていくということをより意識的にすることが大切となります。
特に、発達的な凸凹の存在や、能力的な遅れという大人側の意識は、私たちの中のバイアスとなり、子どもたちの素朴な姿、子どもらしい自然な興味関心や振る舞いに対して肯定的な興味関心を向けにくくし、「あぁ、また“こだわり”だ…」、「いつまでこれをやっているんだろう…」といった具合に、価値のないもの・否定的なものとして受け止めてしまうリスクを高めるものであったりします。

たしかに様々な凸凹のある子どもたちの振る舞いは、一見すると意味や意図が分かりづらく、また、その子の将来を思えば思うほど焦る気持ちが湧いてしまうこともある意味では当然の親ごころではあるのです。けれども、子どもたちの一見風変りに見える、もしくは無価値に見える興味関心や活動に、周囲の大人が関心を示し、活動や(読みとった子ども側や一緒に居る大人自身の)感情を共有するということを意識的に行っていくこと自体が、子どもの基本的な自尊感情を育み、翻っては様々な成長の機会を経験するために必要なこころのエネルギーを充電する作業に他ならないのだということを知っておいていただけたらと願っています。

4. 発達に凸凹のある子どもの「社会的自尊感情」を育む工夫

また、子どもたちの社会的自尊感情を育むということもなかなかに難しいとよく耳にします。子どもの小さな成長を褒めて伸ばしてあげたいということは意識しているものの、子どもの実年齢(生活年齢)を考えたり、将来のことを考えると、「こんなことで喜んでいてはいけない…」、「もっともっと成長してもらわなければ…」、「他の子はもうとっくにこんなことできているのに…」など、子どものことを大切に思うからこそ手放しで喜べないし褒められないという考えが生じることかと思います。そんな時になんとか頭で頑張って誉め言葉を探したとしても、言葉が上滑りするようになってしまい、言っていても自分でも感情が込められず、言われた側の子どもにも響かない…ということを経験したことがある人も少なくないかもしれません。この壁を乗り越えるには、まずは大人側の方で、自分にとって重要な他者・支えとなる人と対話し、こうした将来への焦りや不安、苦悩を語り、大人自身の感情を整理し、エネルギーを充電する作業が不可欠だと思われます。そうして大人側のこころ準備をした後、改めて子どもの社会的自尊感情を育むべく試行錯誤を始めましょう。

その上での工夫としては、“他児との比較”ではなく、“過去のその子との比較”をするという視点を意識することが役に立つかもしれません。発達的もしくは知的な凸凹があると、どうしても他児との比較では褒めて上げにくいことが多いため、そこでの比較は不利になってしまうことを考えると、比較対象は過去の自分に限定し、そうすることで「前(の自分)よりも成長している」ということを褒めて伸ばすことが可能になるかもしれません。
加えて、“褒める”言葉が出てきにくい場合には、“感謝を伝える”言葉も大事な声掛けになることを覚えていてください。「ありがとう。○○してくれて助かったわ」、「○○してくれて嬉しかったよ」といった感謝の言葉を伝えることで、子どもたちが自分には誰かを支える力がある、自分には役割がある、社会には自分の力を必要とする場所があるといったことを体験的に学ぶ機会となって、社会的自尊感情が少しずつ積み重なっていくことが期待できます。いわゆる学習やなんらかの“成功体験”でなくても、日々の生活の中の何気ないやりとりやお手伝いといった活動場面なども含めて、子どもが自信をつける機会は日常の各地に散らばっているかもしれません。

関連資料
自尊感情を巡っては支援者向けにも、保護者向けにも、ほんの森出版から2013年に出版されている近藤卓先生の『子どもの自尊感情をどう育てるか―そばセット (SOBA-SET) で自尊感情を測る』がおすすめの1冊です。わかりやすく簡単な言葉を使いつつ、大事なことが短いページ数でコンパクトにまとめてあるため、手に取りやすい本となっています。

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

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