“自信”ってなんだろう? ~2種類の自尊感情を意識することの大切さ~
- #榊原久直
目次
1. 自信のない子どもたちを巡って
教育の世界だけでなく、心理・福祉・保健医療などなど様々な世界で、子どもたちの自信や自己肯定感が大事であるということや、それらが低い子どもたちへの心配が叫ばれています。ただ、自信、自己肯定感、自己効力感、自己有用感などなど、様々な類似した概念が多くあるため、なかなかこうした概念を日々の支援や家庭生活に役立てられずにいるという人は少なくないようです。今回はこれらの概念の中から「自尊感情」と呼ばれる概念について、一歩だけ踏み込んだ紹介ができたらと思います。
2. そもそも「自尊感情(Self-esteem)」とは
自尊感情を巡っても、実はその定義にいくつもの説があるのですが、ここでは「自己の価値についての肯定的(または否定的な)な感情や態度」という定義を基に話を進めていきます。自分自身のことを満足できている感覚、自分に価値があるという実感、自分には得意なものがあるという感覚などや、自分が周囲から認めらたり求められているという実感など、自分自身で自分に対して肯定的な感覚を抱いているか否かということを表す概念です。そして長年に渡る研究の中で、自己肯定感の高さが、精神的な健康や主観的な幸福感の高さに繋がっていることや、社会的な適応にも繋がっていることが示されてきています。
3. 「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」とは
このように「自尊感情」が大切なことは、子ども自身も、保護者も、そして支援者も皆感じていることではあるのですが、いざ子どもの自尊感情を育もう、自信をつけてあげようと考えだすと、じゃあ一体どうしたらいいのだろう…、褒めているのに自信が育っていかない…といった風な壁にぶち当たる人が非常に多く出てきます。
この壁をうまく乗り越えるためには、自尊感情をもう少しだけ詳しく理解することが役に立つかもしれません。自尊感情というと、褒めて伸ばしたり、成功体験を積むことで伸びるようないわゆる「自信」を思い浮かべがちなのですが、よくよく思い返してみると、そうした感覚だけではなく、「ありのままの自分」で居ていいと思えるような、そんな感覚もまた自尊感情の1つの側面であることに気づくことができます。
そして我が国の自尊感情を巡る研究の中では、そのままの自分を大切な存在と思える感覚である「基本的自尊感情」と、社会の中で自分に価値があると思える感覚「社会的自尊感情」という2つの側面に切り分けて捉えることの有用さが近藤(2013:補足欄に詳細を明記しています)によって提唱されています。そして、それぞれの自尊感情の育ち具合によって、子どもの状態を分けて捉えるということも、大事な理解の視点となると考えられています。
そしてこの2つの自尊感情の育み方としては、大まかには以下のような体験が役立つと考えられています。
基本的自尊感情の育み方
:活動や感情を他者とともに分かち合う体験、自分の興味関心に関心を持ってもらう体験によって育まれるもの。それらを通じて、「生まれてきてよかった」、「自分には価値がある」、「自分は自分」、「このままでいい」と自身で感じたり、相手にそう思ってもらえていると感じられる経験を得ること。
社会的自尊感情の育み方
:誰かから認められたり、褒められたりする体験や、比較される体験によって育まれるもの。それらを通じて、自分は「人より優れている」、自分にも「できることがある」、自分は「社会の役に立つ」といったことを自身で感じたり、相手にそう思ってもらえていると感じられる経験を得ること。
4. 2つの自尊感情を分けて意識することの大切さ
先ほども述べた通り、子どもの自尊感情を育ててあげたいと私たち大人が願う際、ついついどちらか一方に着目しがちなのですが、このように基本的/社会的自尊感情の両方が大事なものであることを意識することで、その両方をバランスよく育てるという新たな選択肢が生まれるかもしれません。
皆さんの目の前にいる子どもは、この2つの自尊感情はどのような状態にあるでしょうか。またあなたが日々の関わりの中で行っている言動は、子どもの2つの自尊感情のうち、どちらに、どのような影響を与えているのでしょうか。ぜひ一度立ち止まって、振り返ってみていただけたらともいます。
補足事項
自尊感情を巡っては支援者向けにも、保護者向けにも、ほんの森出版から2013年に出版されている近藤卓先生の『子どもの自尊感情をどう育てるか―そばセット (SOBA-SET) で自尊感情を測る』がおすすめの1冊です。わかりやすく簡単な言葉を使いつつ、大事なことが短いページ数でコンパクトにまとめてあるため、手に取りやすい本となっています。
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