楽しい活動を通じた発達支援 ~社会性や衝動性への支援としての“ババ抜き”~

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  • #榊原久直

1. 楽しい活動を通じた発達支援を目指して

発達支援や療育活動、特別支援などの言葉から、皆さんはどのような活動をイメージされますか。子どもたちの苦手さに対して、なにか“特訓する”・“訓練する”といった修行のような活動を思い浮かべる人は少なくないかもしれません。また、実際にそのような取り組みがあり、それが子どもたちの能力の向上に寄与することもあるのですが、子どもたちの興味関心や意欲をセットで伸ばしてあげたい時には、できるだけ“楽しい”活動を通じて支援ができるに越したことはないのではないでしょうか。

2. 「社会性の困難さ」や「衝動性」の課題を抱える子どもへの支援を考える

子どもたちの中には、他者とアイコンタクトを取らなかったり、相手の表情や仕草といった非言語的なコミュニケーションや相手の言葉という言語的なコミュニケーションに注目して相手の意図や感情を読み取ることが難しい子どもたちがいます。また、他方で、自分の感情や衝動・興奮をコントロールすることが難しい子どもたちもいます。ではそういった困難さを抱える子どもたちのために、学校園や事業所、はたまた家庭でできる“楽しい”発達支援的な活動として、どのようなものがあるでしょうか。
その具体的な一例として、今回は“ババ抜き”遊びを取り上げたいと思います。

3. 「ババ抜き」遊びと発達支援

多くの人はトランプを使ってババ抜きを家族や友達たちと一緒に遊んだ経験があるかと思います。学校や先生と一緒に遊んだ経験がある人は少ないかもしれませんが、放課後等デイサービスなどの障害福祉の現場では職員と子どもが一緒にトランプをして遊ぶという場面をしばしば見ることがあります。ババ抜きは素朴でなじみのある遊びではありますが、シンプルなルールながらも、楽しく、他者と一対一もしくは集団で遊びつつ、相手の意図を読み取ろうとしたり自分の意図が気取られないようにして遊ぶという、とても素敵な発達支援の可能性を秘めた活動だったりします。あの遊びをする中で、子どもたちはどのようなことを体験することができるのでしょうか。
・同じ「数字を理解」して「マッチング」させる体験
・複数枚のカードを手に持って保持したり、並べ変えたり、選び取る手指の運動体験
・(物を介して)他者と楽しく交流する体験
・相手の言語的なコミュニケーションに注目して注意を向けて意図を読み取る「他者理解」の体験
・相手の非言語的なコミュニケーションに注目して注意を向けて意図を読み取る「他者理解」の体験
・ババを相手に取ってもらうように自分のドキドキや「衝動」にブレーキをかける体験
・相手の意図を意識しながら自分の行動を変容させる体験
などなど、様々な成長に必要な体験を経験する可能性がこの遊びには秘められています。そのため、この遊びをする際に“大人側がこれらのことを意識的に取り組むことさえできれば”こうした活動自体が発達支援だと呼べる活動になります。

4. 「ババ抜き」遊びをする上での一工夫

この遊びをより楽しく、そしてより発達支援的な経験値を積むための活動にするための工夫としては、以下のような工夫があるとよりよいかもしれません。あくまでも一例ではありますが、紹介させていただきます。
・数や文字の理解が難しい子どもや、トランプ遊びそのものへの関心が低い子どもには、その子の興味関心のあるキャラクターなどの書いたカードを使用すること
→数字を照らし合わせるのではなく、キャラクターの種類で照らし合わせられるようにすると、数字がまだ理解できていない子どもでも活動に参加でき、かつ、少しずつ数字を意識する経験を積むことができる
→好きな物と活動をセットにすることで、カード遊びや他者とのやり取りそのものへの興味関心を高めたり維持したりする
・数や文字の理解に不十分さのある子どもには、駆け引き(社会性や衝動性の課題)ではなく、数字そのもののマッチングを楽しく経験できることを課題とすること
→ 楽しい遊びの中で数や文字を意識して照らし合わせる経験を得る機会として
・数や文字の理解や、ルールの理解などに困難さがある子どもの場合には、大人と二人でチームを作った状態で一緒にプレイすること
→数字やルールの理解の困難さを大人が補いながら、数字ややりとり遊びの経験を積んでいく
・視線の合いにくい子どもにはこちらのカードを持つ高さを調整して顔の高さにすること
→カードをとる際に自然にこちらの顔が子どもの視界に入るようにし、アイコンタクトや相手の顔・表情に注目する機会を提供する
・プレー中にこちらの考えていることや、子どものどこに着目して、どのように読み取ったのかということを言語化して伝えること
→相手の意図を理解したり、相手の意図を理解しようとする際にどういったものに着目するのかといったことを学ぶモデルを示したり、自分自身の振る舞いが相手にどのように映っているのかについて意識し、コントロールする経験を提供する
 例「ずっとこのカードを見てるから、怪しいなぁ…」
  「このカードを引こうとしたら、ドキドキして足が動いてたよ」
  「こっち側からばっかりカードを引くから、わざとここにババを仕掛けたんだ」
これら以外にも、子どもの得意・不得意であたり、自信や意欲の程度に応じて、子どもが楽しみながら様々な経験値を積んでいけるような工夫を練っていくことができれば、楽しくも有益な時間となるかもしれません。

その他にも「七並べ」や「ジジ抜き」など、同様の体験が経験できうるトランプ遊びや、ババ抜きよりもより高度な知的もしくは社会的な力が必要となるトランプ遊びが数多くあります。それらにも様々な発達支援の要素が秘められているかもしれません。ぜひ皆さんも、素朴にある遊びの中に、発達支援の可能性を発掘してみてください。

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この記事を書いた人

榊原久直

京都教育大学総合教育臨床センター講師(学びサポート室担当)、臨床心理士・公認心理師

関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。