イングランドのギフテッド教育③
- #イングランドのギフテッド教育
- #伊藤駿
目次
はじめに
イングランドのギフテッド教育②では、イングランドにおけるギフテッド教育について、特徴的な4つの取り組みを紹介しました。今回は、その取り組み後行われていた、Young Gifted and Talented Programme(YGTP)を紹介します。
YGTPとは
YGTPは2002年から2010年までイングランド政府によって制度化されていたプログラムです。なお2002年から2007年は政府が主導していましたが、2007年6月に誕生したブラウン政権においては外部機関に委託されています。ただし、その内容は基本的に継承されています。
まず、YGTPに参加するためにはギフテッドもしくはタレンティドとして認定される必要があります。その認定にあたってはほとんどが学校内部で完結するが、保護者が認定を求めている場合は大学や学校、地方自治体に専門的助言を得ることを求めることができるようになっていました。その中で、およそ11歳から19歳の子どもは上位5%の能力を有すると認められた場合YGTPに参加することができるとされていました。他方で、4歳から11歳未満の子どもについては同級生との比較によって選定されるが、選定割合の規定は設けられておらず、比較的広範囲の子どもが対象となり得ました。
YGTPへの参加が認められた場合、「YGTPアカデミー」のメンバーとなることができます。これにより、類似する志を有する仲間と出会えたり、様々な教育資源を得たりすることができるとされていました。また、各地域でのイベントや議論の場に参加することも認められました。実際にYGTPのホームページを確認すると、オンラインでの哲学講義の動画などが提供されており、それぞれの関心に応じた学習に取り組むことができました。
またYGTPに関係する動きとして2002年から2007年までウォーリック大学を拠点として「ナショナル・アカデミー(National Academy)」が開設され、11歳から19歳の子どもの中でも上位5%の才能を有するとみなされた子どもたちが参加することが認められました。これは当時の想定として、ギフテッドの子どもたちの多くが大学進学を希望するだろうと予想されており、予め大学とのネットワークを得ていることが、ひいては中等教育から高等教育への移行をスムーズに行うことができると考えられていたためです。ただし、YGTPにおいて、あくまで大学進学は進路の一つであり、それ以外の進路も可能な限り尊重されるようにプログラムの多様性が追求されていたことには注意を要します。
しかし、このYGTPは現在は行われていません。なぜイングランドにおいてこのYGTPは行われなくなったのか、次の記事ではその理由をご紹介します。
関連資料
植田みどり(2018):イギリスの才能教育.山内乾史編,才能教育の国際比較.東信堂,pp.31-47.
伊藤駿(2023):イギリスにおけるギフテッドの子どもたちに対する教育.発達障害研究,44(4), pp.368-376.
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