発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑪漢字書けたら、心も晴れた 「つまずき」工夫で克服~

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楽々小学校3年2組のさくら先生は陽介さんが心配です(いずれも仮名)。5月から時々休むようになりました。学校では友だちと元気に遊ぶのですが、授業ではノートを出しません。注意すると素直に出しますが、板書を写してくれません。ノートには気になることがたくさんありました。  
ノートのあちこちから書き始めます。平仮名では「っ」を忘れるし、「ね」のクルリと回るところがうまく書けません。「を」は「お」、「へ」は「え」と書きます。 漢字は偏とつくりが遠く離れて升目をはみ出してしまいます。「肉」の中は「人」ではなく「Y」が二つ並んでいます。算数も計算は得意ですが文章問題は苦手です。  

お母さんとの懇談で家での様子を尋ねました。帰宅したらすぐゲームを始めてしまい、なかなか止められません。漢字の練習や教科書の音読を嫌がります。書き順が苦手で、お母さんが横にいないと宿題は終わらないということでした。  
でも、さくら先生は陽介さんが怠けているとは思えませんでした。どうすればいいのか知りたいと、巡回教育相談を利用したのです。  

教育相談員によると、陽介さんは限局性学習症(学習障害)の一つ「ディスレクシア」が疑われました。文字を見て把握し声に変換する経路や、頭に文字のイメージを描いて手指を動かして再現する経路に何かしらのつまずきが生じているようだというのです。
そう聞いて納得したさくら先生は、まず教室でできることから始めることにしました。パーツに分解した漢字を耳から入る語呂合わせで覚える方法や、先生が大きく書いた文字をなぞる「空書き(そらがき)」を積極的に取り入れました。漢字は、線の重なりや配置を把握しやすいようにと、色分けします。宿題では大きな升目に一筆入魂で漢字を書かせます。間違いを赤ペンで直さず、できているところにマルをします。  
新しい内容に入る前にはデジタル教科書の読み上げ機能を利用して予習してもらい、音読など陽介さんにかかる負担をなるべく減らします。  

陽介さんは先生やお母さんに「見て、見て!」とノートを見せにくるようになりました。「やる気のない子」は困っている子です。「分からない」「できない」を繰り返すのはつらいもの。小さくても「分かった!」「できた!」が毎日あれば、心が晴れるはず。子どもも大人も一緒ですよね。

筆者紹介
小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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