どうしてじっとしてくれないの? ~発達特性と体の動きについて~

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  • #榊原久直

1.「じっとしてくれない子ども」に立ち止まる

乳幼児さんから中学生頃にかけての保育・教育活動の中で、もしくは私生活の中で、何度注意してもじっとしてくれない子どもの姿に、内心苛立ちを覚えたことはないでしょうか。あれほど注意したのに…、落ち着きがない…、周囲の迷惑に…、傍にいる大人としては見ていて気持ちがざわつく場面であると思います。では、こうした振る舞いをする子どもにはいったいどのような事情が考えられるのでしょうか。

2. 「社会性の困難さ」という視点

まず大前提として、大人側からすれば「今はじっとしておくべき時間や場所だ」という認識があり、子どももそれをわかっているにも関わらずじっとしていないという捉え方があるからこそ、見ていてイライラしてしまうことかと思います。けれども、その子は本当に、今、その時間や場所が、じっとしていなければならない場面であるということを理解できているのでしょうか。周囲の状況から自分はどのように振舞わなければならないのかということを察する力は、社会性の大事な側面ですが、そうしたいわゆる“空気を読む”力に困難さを抱えた子どもからすれば、実はこの大前提からすれ違いが生じている可能性が出てきます。大人側からすれば、同様の場面で過去に説明や注意をしたとしても、その子からすれば、その時学んだ、「○○な場面ではじっとしなければならない」という教訓や、「○○な動きが周囲の人を不快にさせるかもしれない」という教えが、「今、ここで」も適用されるということが理解できないことが少なくありません。

そうした子どもたちには、「今、ここで」も動くことが好ましくないということを、すなわちかつて学んだことのある教訓が今の状況で活かされるタイミングなのだということを、そっとその子に伝えてあげ、“気づかせてあげる”ということが大事になります。また、いつかは自分でその判断ができるようになってほしいと願うのであれば、“教える”という形ではなく、大人が「今、みんな○○しているけれども、○○していていいかな?」といった具合に“尋ねる”という関りによって、自分で考え気づく練習をするという支援も大事な配慮となるかもしれません。

3. 「不注意」・「多動性」・「衝動性」という視点

また、今はじっとしていなければならないということが理解できていたとしても、ついつい動いてしまうという子どもたちもいます。例えば、周囲の音や目に映るモノに敏感に反応してしまい、それまで意識していたことが抜け落ちてしまう「不注意」の特性を持つ子どもたちや、同じく、「衝動性」と呼ばれる、自分の感情や衝動のコントロールが苦手な子どもたちも、意図せず反射的に行動に移してしまうという体の事情を抱えており、じっとしていなければならないとわかっていても、気づけば体が動いしまっていたという失敗体験を繰り返し経験しがちです。加えて、「多動性」と呼ばれる自分の体の動きをコントロールしづらく、どうしてもムズムズしてしまったり、動きたくなってしまう体を持つ子どもたちとしても、わかっていても動かないとやっていられなかったりするという場合もあります。

こうした子どもたちには、じっとしないといけないと本人が意識していることが、体の持つ事情によって抜け落ちてしまうという困難さがあると考えられるため、先ほどの子どもと同様に“気づかせてあげる”関わりが役に立つと思われます。別の言い方をすれば“思い出させてあげる”ような関わりかもしれません。気づけば動いてしまっている自分を自覚できるようにしてあげたり、もしくは、今はじっと自分の体をコントロールしなければならない場面だという意識を取り戻す手助けをしてあげることがその子の抱える困りごとをサポートすることになります。また、多動性の特性を持つ子どもたちには、あえて動きを認めてあげた方が、むしろ子どもがやるべきことに集中できるようになるということもあるため、無理にじっとさせるのではなく、その子が多少動いても周囲に支障が生じないような環境整備をしてあげることや、今よりも悪目立ちしにくいより小さな動きをすることで自分のそわそわムズムズする感覚に対処できるように別の努力の仕方を一緒に考案するといったことも大事な支えになります。

4.「姿勢保持の困難さ」という視点

その他にも、座ったり立ったりするなど、同じ姿勢をキープすることが難しいために、じっとしていられないという「姿勢保持の困難さ」を抱える子どもたちもいます。そうした子どもたちからすると、ある意味でその“場”に居るためには、ある程度体を動かさないと、その場に留まることができないという事情があるのかもしれません。また、そうした困難さを抱える子どもたちは、そうでない子どもたちと比べて非常に疲れやすい体をしているため、同じ姿勢を保ち続けることが難しかったり、一日の中でも時間が経てば経つほどますます体をコントロールしづらくなってしまうということもあります。

そうした事情によって体が動いてしまう子どもたちのためには、例えば椅子と机の高さを調整してあげて座りやすい設定になっているかどうかを確認・調整してあげたり、クッションなどで姿勢の保持をサポートするアイテムを活用するといったことが支援になる場合があります。また、休み時間や体育の授業内などで、踏ん張ったり踏みしめたり、走ったり体の動きを止めたりといった、全身を使った活動や、いわゆる体幹を使った活動を楽しく経験する機会を提供することが、少しずつでも自分の体を支える力が成長していくことの手助けになると考えられます。ただし、そういった力はすぐに身につくものではないため、 何かの活動をする際に、活動時間の最初の方はじっとすることや正しい姿勢を保つことを求めつつも、時間が経つ中で、その活動の中でより優先順位の高いもの(話を聞くこと、課題に取り組むことなど)を優先し、姿勢や体の動きをことはあえてスルーしてあげるといったことをしてあげるなど、優先順位の変更や、課題の切り分けをしてあげることも大事になってきます。

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

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