どうして手を繋いでくれないんだろう? ~悲しいすれ違いと発達特性~

  • 事例を学ぶ

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  • #榊原久直

1.「手を繋いでくれない子ども」に立ち止まる

幼児期や児童期の保育・教育活動の中で、もしくは私生活の中で、大人や他の子どもと手を繋ぎながら移動をする場面は日常的によくある光景ですが、時折、手を繋ぐことを嫌がる子どもの姿や、繋いだ手をすぐに振りほどいてしまう子どもの姿を見かけることがあります。手を振りほどかれてしまった側からすれば、胸がチクチクと痛みますし、安全に移動するためにも手を繋いでいてほしいのに…と、心境は複雑です。では、こうした振る舞いをする子どもにはいったいどのような事情が考えられるのでしょうか。

2.「感覚過敏」という視点

子どもたちの中には、特定の刺激を他児よりも強く不快に感じるという感覚の過敏さを生まれつき持ち合わせている子どもたちが居ます。お砂場遊びで手に砂がつくのを避けるようにして遊んでいる、絵の具やノリが手指につくとすぐに洗おうとする…など、他にもこういった姿を見せる子どもたちの場合、もしかするとあなたやお友達と手を繋ぐことがイヤなのではなく、手を繋ぐときの感覚が不快に感じられてしまい、どうしても耐え難く感じているのかもしれません。

手袋をつけて感覚を弱めたり、吊り輪やロープなどの手以外の“物”を握ることにしたり、相手に手を“握られる”のではなく手や他の部位を“自ら握る”ようにするなどをして、手に生じる感覚を弱めたり、変えることで子どもの反応が変わるかどうかを一度見てみると良いかもしれません。

3.「社会性の困難さ」や「衝動性」という視点

また、その子ははたして、“手を繋ぐ”という行為をする際に、あなたや他児の意図であったりその目的を理解できているでしょうか。手を繋ぐという一見当たり前におもえる行為ですが、相手の意図や目的を掴みづらい社会性や対人コミュニケーションの困難さを抱える子どもからすれば、その行為はよくわからない身体拘束や移動の妨害として映る可能性が出てきます。もしくは、そういった意図や目的が頭でわかっていたとしても、自分の欲求や感情といった衝動をコントロールすることが困難な子どもたちからすると、咄嗟にそうした理解が置き去りにされてしまい、いの一番に今の自分の頭にある目的を果たそうとして、繋がれた手を忘れてしまったり、目的を邪魔する障害物かのように感じてしまい、振りほどいてしまうこともあります。

「私」や他児の「Aちゃん」がどういった意図や目的で手をつなごうとしているのかを、改めて説明してあげたり、それが咄嗟に頭から抜け落ちてしまったら、再び“気づかせてあげる”ような声掛けを行うことが、そうした事情を抱える子どもたちへの手助けになるかもしれません。

4.「姿勢保持の困難さ」という視点

その他にも、他者と“手を繋ぎながら歩く”という運動そのものが難しいため、手を繋ぎたくても繋げないという事情を抱えた子どもたちが居ることをご存知でしょうか。歩く時や走る時に独特な腕の振り方をしている子どもたちや、よく躓いたり転んだりする子どもたち、はたまた座ったり立ったりして同じ姿勢をキープすることが難しくて姿勢が崩れやすい子どもたちなど、自分自身の体をコントロールしたり、バランスをとったり、体の各部を連動させて動かすことが得意ではない子どもたちにとっては、手を繋いで移動するという行為は実に難しい運動になってしまいます。いつも通りのバランスのとり方、体の動かし方が手を繋いでしまっているので難しい…、なんだかいつもと違って歩きにくい…そんな風に感じて、手を繋ぐことをためらったり戸惑ったりすることがあります。

手をしっかりとは繋がずに緩く繋ぐ形をとってあげたり、輪っかやロープを握るなどをして、ある程度その子なりに手や腕を使ってバランスがとれるようなあそびを設けることや、手つなぎ歩行場面ではなく、日常の様々な場面で楽しく身体を動かして遊ぶ機会を提供し、姿勢保持や運動面の力の発達を促すといった支援が必要になるかもしれません。

筆者紹介
榊原久直 臨床心理士・公認心理師 京都教育大学 学びサポート室 講師
関係性の中で子どもは育つという関係発達の視点から、子どもや保護者、支援者を支援する実践と研究を行う2児の父親。

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