発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑩困っているのは子ども自身 大人が変われば扉開く~

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  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

7月のある日、私は教育委員会の巡回教育相談員として楽々小学校(仮名)を訪れました。校長先生の依頼は「3年2組の担任が指導に悩む児童がいます。アドバイスをください」。元気な声が響く廊下を通り、教室の扉をそっと開けると「だあれ?」と、たくさんのかわいい目のお迎えが。にっこりうなずいて立っていると、子どもたちは教科書に向き直ります。
空気の流れや明るさ、机、棚、ロッカーの配置や学級文庫、虫かごなどからクラスの雰囲気を推し量ります。壁一面に絵や書道、自己紹介、目標の張り紙。授業はテンポよく進んでいます。
乗り遅れてはいけないぞ。どんな話かな。教科書とノート、プリント、タブレットも使うのね。一緒に授業を受ける気持ちに切り替えます。
先生の明るい声が響きます。「この問題、分かる人!」。たくさんの腕がピーンと伸びます。先生に指された子が椅子を引いて立ち上がり、答えてからクラスメートに問いかけます。「いいですか?」。すると一斉に「いいですよ!」。

次の授業です。「班ごとに話し合いましょう」。先生がパソコンをモニターにつなぎ、タイマーで時間を計り始めます。机を向かい合わせに並び替えると、あふれる声ですっかりにぎやかに。転校生気分の私も何とか授業の波に乗れました。
クラスの様子をじっくり見ます。やはり、気がかりな子がいます。
物憂げな表情でぼんやり。おしゃべりに夢中。椅子をぎったんばったんと動かす。ノートに何も書いていない。立ち歩いている―などです。
授業がつまらないのかな、やる気になれないのかなと思いがちですが、実は「何を問われているのか分からない」「また失敗するからやりたくない」「頑張りすぎて疲れてる」ということも多いのです。いずれも「発達でこぼこ」の特徴です。
「朝ごはんを食べていない」「お母さんに叱られた」「夜遅くまでゲームをしていた」といった具体的な行動に目を奪われず、その奥に潜む発達や心の問題に気付いてあげる必要があります。

私のような教育相談員は、こうした子どもの担任の先生や保護者と面談し、特徴的なエピソードを探ります。発達や自己肯定感の高低などに注目して行動や発言、ノートや作品を分析します。
「一番困っているのはこの子だ」ということを理解してもらえれば、周りの大人が「変わろう」「工夫しよう」と動き出します。そして、新しい扉が開くのです。

補足事項
教育委員会や特別支援学校には、多職種を外部委員として招く地域支援チームを組織し、地域の公立小中学校を中心に巡回教育相談を実施しています。他機関連携の要として、活用されていますが、案外と現場の担任には周知されていませんので、一度ご確認されてはいかがでしょうか。

筆者紹介
小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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