発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑨電卓で足し算、成功体験に 現場の先生が創意工夫~

  • コラムを読む
  • 事例を学ぶ

投稿日: | 更新日:

  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

25年前のこと。「発達でこぼこ」のあるゆうすけ(仮名)君にとって、小学校はしんどい場所でした。親御さんも、授業参観日になるとちょっぴり不安な気持ちに。他の子どもよりワンテンポ遅れ気味で、先生の指示もよく分かっていない様子。宿題も一苦労ですが、仕方のないことと諦めていました。
このままでは学力も伸びず、自信をなくすばかりで社会性も身に付きそうにありません。ゆうすけ君に適した特別な配慮や調整が要りますが、通常の学級での対応は手探りの時代でした。

「個別の配慮をするのとしないのと、子どもの将来はどのように変わりますか」「対応のマニュアルはありますか」。小学5年でゆうすけ君の担任だった鈴木先生(仮名)の問いかけに、私は答えられませんでした。
支援の枠組みも制度もない中、鈴木先生は学年でゆうすけ君の情報を共有し、学校の課題として問題提起してくれました。足し算や引き算に苦労するゆうすけ君にある日、電卓を使うことを提案し、みんなの前で成功体験を持たせてくれたことは忘れられません。翌年の担任への引き継ぎも丁寧で、少し頑張れば解けるようなプリントも準備してくれました。

25年たった今は、特別支援教育への保護者の抵抗感もなくなり、むしろ専門性への期待が高まっていると感じます。
障害の有無で子どもを区別せず一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」も重視されるようになりました。子どもの数は減少しているのに、特別支援学級や特別支援学校で学ぶ子どもは増えています。
通常の学級に通いながら、障害に応じたサポートを提供する「通級指導教室」の対象に2006年、発達障害が加わり、通級の利用者は全国で20万人に届く勢いです。
全ての学校に特別支援教育コーディネーターが配置され、校内委員会では気がかりな子どもの情報共有や支援策も検討します。
病院などで発達障害と診断される子どもは年々増えています。専門病院や専門医が少ないので、受診まで数カ月、1年以上待つこともあります。さまざまな分野で発達障害への対応が大きなテーマとなっていて、次々と設立される「親の会」が理解者、代弁者の役割を担っています。著名人の自己開示や、マスコミでの情報発信も盛んです。

鈴木先生、私への問いかけを覚えていますか。今は学校の制度が整い、社会も変わりました。発達でこぼこの教育は専門家だけのものではありません。その第一歩は、現場の先生による創意工夫から始まったのです。

筆者紹介
小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

Share

  • Xで記事をシェアする
  • Facebookで記事をシェアする

この記事を書いた人