発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑧つまずいても七転び八起き 大人への道、前に進む~

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たかしさん(仮名)は大学卒業後、発達障害がある人向けの3年間の就労移行支援を経て2024年春、得意分野を生かした就職を果たしました。平たんな道ではありませんでした。家族や学内の障害学生支援室の助けもありましたが、持ち前の誠実さと真面目さで、つまずくことはあっても七転び八起きで前に進めたのだと思います。

就学前、対人関係に難しさを抱えることが多い自閉スペクトラム症(ASD)と診断されました。小学校、中学校では特別支援学級で学びましたが高校は普通科に。
高校では本人の意向を尊重し、確認する環境に変わったのです。これを「合理的配慮」と呼びます。たかしさんは後に、中学までは自分が何も言わなくても支援を受けられていたと気付きました。保護者と学校が相談したり、学校が独自に判断したりした結果、特別な配慮が提供されてきたのです。

合理的配慮は、06年に国際連合が採択した障害者権利条約の「合理的配慮の提供の確保」に基づくもの。日本は07年、条約に署名し、14年には批准しました。
合理的配慮の目的は障害などによる心理的、身体的、感覚的負担を軽くすること。当事者の意思に基づいて、話し合いを経て必要で適切な変更や調整を行いますが、その後も問題が生じていないかをモニタリングし続ける必要があります。

大学生だったたかしさんはアニメや小説創作などの趣味に熱中したいのに思うようにできず、ストレスで体調を崩したことも。それでも、現実の社会にむなしさを覚え、適応することへの難しさを感じるたび、周囲の人と話し合って調整を求め、何とか適応することを繰り返してきました。
理系で実験の好きなたかしさんの自己表現は独特です。例えばこんな具合です。
「自分は現実世界ではイオン化傾向の高い元素であり、多大なエネルギーを使うためさびやすく、わずかなことで動けなくなる」「趣味に没頭できるマイワールドに引きこもるとさびは落とせても(現実世界に)戻れなくなる」「誰かとイオン結合すれば安定するが、自分には友人がいない」
〝イオン結合〟を補うのがカウンセラーや障害学生支援室のスタッフ、親というわけです。
就職してうまくやっていけるのか心配していたのですが、たかしさんは笑顔で話してくれました。「職場にはそばで支えてくれる支援員はいないし、時間割もないのでスケジュールが簡単に崩れてしまいます」
経験した数々の困難を自分の力に変えて、いつの間にかすっかり大人に成長していたのです。感無量でした。

補足事項
合理的配慮は、06年に国際連合が採択した障害者権利条約の「合理的配慮の提供の確保」に基づくもの。日本は07年、条約に署名し、14年には批准しました。
合理的配慮の目的は障害などによる心理的、身体的、感覚的負担を軽くすること。当事者の意思に基づいて、話し合いを経て必要で適切な変更や調整を行いますが、その後も問題が生じていないかをモニタリングし続ける必要があります。

筆者紹介
小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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