発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑦ペンギンは空を飛ばない 「深い穴」支援が埋める~

  • コラムを読む
  • 事例を学ぶ

投稿日: | 更新日:

  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

発達障害の一種、自閉スペクトラム症(ASD)のあかねさん(仮名)はいつもあっと驚く話をしてくれるのですが、彼女の悩みは「普通っぽく見えるので、困っていることを周りに理解されない」ということです。
ASDは見た目では分かりにくいのです。学習に困らない人もいて、その場合はなおさらです。診断まで本人が気付かないこともあります。

「人の話を理解するのが苦手と訴えても『真面目に聞いていないから』と決めつけられてしまう。何度も聞き返すと『2回も言わせるな』。そんな出来事が起こるたびに、なぜ私はサポート(支援)してもらえないのだろうと悩んだ」
周りの大人は彼女のことを、力はあるけれどやる気がないだけで、もっと頑張ればできるはずだと思い込んでいたのではないでしょうか。
「私は捻挫している状態なのだ。ベストコンディションではないし、普通の速さは出せないけれど、歩いたり走ったりできないわけでもない」。こうした状況で、あかねさんは不登校となります。数年後に当時の心境を語ってくれました。
「学校というエリアには深い穴(勉強と人間関係)がいくつもある。いつも『失敗して落ちたらまずい』と緊張していた。つらくなってエリアから飛び出したのが不登校。これで落ちる心配はないと解放された」
当時、家族や先生、同級生たちは突然のことに驚いて、何とか学校に戻るよう誘いました。
「ほとんどの人が『こっちは過ごしやすいよ』と、エリア内に引き戻そうとするのが嫌だった。みんなに分かってもらえなかった」
「私はまるでペンギン。鳥っぽくないけれど、自分の力を発揮でき、なおかつ居心地がいいと感じる海がある。もう、空を飛ぼうと頑張らなくてもいいや。私は海で飛べるのだ」

しかし、あかねさんは転校し、そこで支援や配慮を受けるようになり、学習への取り組みや人との関わりへの自信を持てるようになります。
「最初の学校では『なぜ飛ばないの?』と聞かれるだけだったけど、次の学校はパラシュートをレンタルしてくれた。それで飛んでみたら、私は結構飛ぶのがうまいみたい」
周囲が当事者の声に耳を傾けることで、ちょうど良い支援が見えてくるのです。

補足事項
当事者の言葉ほど「発達でこぼこ」の世界を的確に表現できるものはありません。そしてそれは、病名から抱く人々の思い込みを見事に打ち砕くこともあります。

筆者紹介
小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

Share

  • Xで記事をシェアする
  • Facebookで記事をシェアする

この記事を書いた人