発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑥私はおかしくなんかない 自分知り、新たな道へ~

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  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

発達の遅れはないけれど、でこぼこに由来する「課題」のある子どもがいます。こういう子は周囲の大人や友人から注意され、叱られる経験を積み重ねがちです。

将来を心配する親御さんは「やったらできる。もっと頑張れ!」と、叱咤(しった)激励してしまう。学校でも、同級生の中には距離を取る子、トラブルになる子もいます。そんな生活で本人たちはどのように自分を見て、感じているのでしょうか。高校3年のみちるさん(仮名)は卒業前にこんなリポートを書きました。
「私を一言で表すなら〝謎〟だ。言ってしまえば、えたいが知れない人。多分、この学校でもそう思われていたのではないだろうか。私は別に反抗的な子供ではない(略)普通の、まじめで、おとなしい子。しかしこれらは全て、見かけの話」
「小学4年生の時。担任の先生がバレーボールの大会に出ることになり、応援に行こうという話がクラスメートの間で出た。私はその先生が大好きだったので『私も行く』と言い、試合当日、応援に行った」「本当に来たのは私だけだった。いわゆる社交辞令だったのだ。私だけが、それを理解していなかった」「愛ある〝いじり〟(悪意の少ないからかい)を本気で言った暴言だと思ったり、逆に本気で言われた暴言を冗談だと思ったり。そのため、私は冗談を言われても本気で考えた真面目な返ししかできず、ノリの悪い子だった」

みちるさんは小学5年から中学2年まで不登校になります。発達にでこぼこのある自閉症スペクトラム(ASD)であるとの診断が小学2年で出ていました。お母さんは、不登校になった彼女にそれを告げたのです。
「私にとってうれしい事実だった。何となく周囲の人の声が聞き取りづらい、話を理解するのに時間がかかる、わざとでないが人を傷つける発言をよくしてしまう、怒られることや人前での失敗を異常に嫌がる。(略)私がおかしいから、悪い子だったからではないのだと確信が持てたから」
思いがけず自分を知る機会を得て、みちるさんは新しい道を進みます。自分を知ることで、自分が折り合える環境を選び、専門家と呼ばれる支援者とつながり、多くの応援者と共に豊かで充実した人生を送っています。

補足事項
自分を理解すること、自分を受け入れることは意外に難しいです。家族や友人から肯定される機会は少ないもの。「あれをしなさい」「これをしなさい」と、できていないところ、駄目なところを注意される方が多いのでは。
そのような状況で、自分を理解すること、自分を受け入れることはとても難しいはず。具体的に肯定的に良いところを見つけることが大切です。

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この記事を書いた人

小谷裕実

京都教育大学教授・学びサポート室長、博士(医学)、小児神経専門医

総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。