発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~⑤ありのまま、受け入れて~

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  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

「発達でこぼこ」のある子どもの親御さんは不安を抱えながら、子どもの通訳やマネジャーの役を担うことが少なくありません。学校や社会には子どもの特性を伝えて理解を得るために奔走し、子どもには学校や社会のルールや営みの意味を伝えようと頑張ります。

小学校を卒業したとしやさん(仮名)のご家族は、受診のたびにリポートを持参してくれます。許可をいただいたので、その内容を紹介します。
希望に胸を膨らませて入学したとしやさんですが、新しい環境への順応が苦手で、小学校という壁は「とてつもなく高いものだった」そうです。
元気に登校し「楽しかった!」と帰宅する―。思い描いていたようにはなりませんでした。「発達障害が身近なものになろうとは、夢にも思っていませんでした」
徐々に登校を嫌がるようになり、校門に入ることができずにいたのを近くの人が見つけ、連絡を受けた学校の職員が保護することもありました。
登校に家族が付き添いましたが、教室に入ることはできず、廊下で過ごす毎日が続きます。担任の先生が、どうしたらとしやさんが教室に入れるようになるかをクラスで相談して、「あれがとしやさんなんだ」と、みんながありのままを受け入れてくれたそうです。
3年生になると、友達と一緒に通学できるようになりましたが、興味のある授業では積極的に参加するものの、「面白くない」と感じた時は机の上に教科書を出さず、ノートに絵を描いたり家から持ち込んだ本を読んだりして過ごすという具合でした。
しかし、担任の先生たちは無理に周りと合わせようとはせず、としやさんは自分なりのスタイルで卒業まで授業に参加し続けられたのです。
「社会に出たらわがままは許されない」との思いから、学校の先生や親御さんが「皆に同調させたい」「早く支援のはしごを外したい」と悩むことはよくあります。
とはいえ、発達でこぼこの支援の緩め方、外し方は容易ではありません。本人の成長を確認しながら試行錯誤を繰り返す必要があります。
ご家族は、中学生になったとしやさんについて「これからどのような成長を遂げてゆくのか今から楽しみ」と期待しておられます。私も、一緒に伴走することが楽しみです。

補足事項

文部科学省は、学校教育で「持続可能な開発のための教育(ESD)」を推進する方針です。人権やジェンダー平等、文化の多様性などの重視が根底にあり、一人一人を大切にしつつ、集団の良さを生かした学校づくりを目指しています。

筆者紹介

小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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