発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~④親の気持ち深く考える~

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  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

「この子を先生の養子にしてくれませんか?」
私が戒めにしている言葉です。診療では、子育てに悩む親御さんに「これ、やってみたら。そこは我慢しましょう」などとアドバイスします。親御さんの気持ちや家庭の状況を把握しているつもりでしたが、意外に分かっていないし、深く考えてもいなかったのです。

まさと君(仮名)のお父さんは一人で子育てをしていました。忙しくても時間を捻出し、定期的に外来に通っていました。ある日、いつものように話していたとき、冒頭の言葉を投げかけられたのです。私は言葉を失い、うろたえます。お父さんは続けます。
「先生のおっしゃる通り、やらなければいけないことはよく分かりました。でも、うまくできる自信はありません。いっそ先生の養子になれば、この子は幸せなのではないでしょうか」
私とまさと君との暮らしを思い描いてみました。胸に手を置いて、育てられるかと問いかけました。「無理だ」。どんな局面にも対応する覚悟と柔軟さを持てるのは、親の人生の中でその子がなくてはならないものだから―。私は改めてそう気付かされました。
私は第三者だから、冷静に正論を伝えられただけ。当事者である親御さんのことをもっと深く考えて、言葉を選び、タイミングを推し量って伝える必要があったのです。

「あの時は、崖から突き落とされたかのような気持ちになりました」
ある「障害のある子どもの親の会」に招かれたときのことでした。保健センターの乳幼児健診で「お子さんには発達の課題があります」と私が伝えたことのある親御さんがいて、話題が当時のことに及んだのです。
「3年余り、毎日子どもと触れ合って慈しみ育ててきた。あなたはたった15分診ただけで一体何が分かるのか」。あのとき、親御さんは私にそう言ったのです。
その子、けいすけ君(仮名)が通う保育所の保育士さんたちがその後、話をじっくり聞いてくださったこともあり、親御さんは徐々に状況を受け入れていきました。数年後に「親の会」の設立メンバーとなり、同じ立場にある保護者のピア(仲間)サポートを始められたのでした。
「でも、あの瞬間があったからこそ、今の私があります」。お母さんの優しい声が、けいすけ君の背中越しに届きました。

補足事項

保護者自身が「わが子とともに歩んでいこう」という気持ち、考えをゆっくり育む過程こそが重要です。専門職によるオフィシャルなサポートに加え、家族や友人によるノンオフィシャルなサポートが必要なのは言うまでもありません。

筆者紹介

小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授。総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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