発達でこぼこ、一緒に歩こう! ~①発達障害の子を診て30年 学びと感動ほっと一息~

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  • #小谷裕実
  • #発達でこぼこ、一緒に歩こう!

概要

2024年5月~9月に地方紙で連載した、発達障害のある子どもたちの医療に関する連載記事(全20回)です。一部改変してお送りします。

本文

「サービスです!」。明るい声が響く。にこやかな若い女性があふれんばかりの水を注いだコップをテーブルに勢いよく置くとちょっぴりこぼれた。あー、たまらないこの感じ。どんよりした古い価値観にしばられているカサカサの心にふんわり風が吹き、優しく爽快な気持ちになる。ここは、発達にでこぼこ(発達障害)のある方も働くお気に入りのベーカリー。いつもの香ばしい「もちきびパン」とカプチーノでほっと一息をつく。
私は障害のある子どもを専門に診る小児科医です。3カ所目に勤めた病院でダウン症や知的障害、医療的ケアがいる重症心身障害児と出会い、障害のある子どもの教育に関心を持ち、人生のかじを大きく切って白衣と聴診器を傍らに置きました。
現在は、教師になりたい学生や学び直したい教師のための大学で教えています。発達障害の子どもの支援を研究し、時々診療もする毎日です。
大学に仕事場が変わると、心にぽっかり穴があきました。原因は「子ども不足」。大学には育て方に悩む親のための相談窓口があり、これを担当すれば子どもに会えるだろうと考えました。毎日のように子どもや保護者の悩みに耳を傾けたのですが、困ったことに聴診器では子どもを見立てられないのです。
新しいスキルを身につけようとあちこちの講習会に出没し、先輩の児童精神科医に弟子入りするなど一から学び直しです。そんなある日、お母さんに連れられて小学3年生のたける君(仮名)がやって来ました。
宿題を嫌がり登校をしぶります。「なぜやる気がないのですか。どうすれば良いでしょう?」とお母さんは不安げです。「一緒に勉強しようか」と声をかけると、青ざめて一目散に逃げてしまいました。おかしいな、元気な子どもなのに。すると彼の連絡帳を見てびっくり。象形文字のようなふぞろいの文字が並んでいます。「でこぼこ」があると分かったのです。3年半、手探りで家庭や学校とすったもんだしましたが「僕できた!」と目を輝かせる6年生になってくれました。(プライバシー保護のため子どもの学年などを変えています)

まとめ

気が付けば30年。子どもの成長に感動し、保護者に教えられ、担任のアイデアに舌を巻き、校長の心意気に胸打たれる日々です。丁寧にゆっくり走る「でこぼこ列車」の車窓からの、豊かな味わい深い景色をご紹介できればと思います。

筆者紹介

小谷裕実 博士(医学)、小児神経専門医、京都教育大学教授
総合病院で勤務ののち、障害児者施設で特別支援教育と出会い、特別支援学校教員養成と研究の道へ進む。現在は、発達障害児者に対する医療と教育の連携、社会移行支援をテーマに研究や臨床に取り組む。

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