暗黙のルールの理解が難しい児童

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  • #相澤雅文

集団生活を送る場には、「きまり」や「約束」があります。それらが明確に示されていれば、行動する上での目安となり、安心して生活する基盤ともなります。しかし、「暗黙のルール」というものも存在します。「暗黙のルール」に気付かなかったり,守れなかったりすると、周囲に溶け込めないことがあります。

1.児童の様子

小学校1年生の男の子です。
3歳の時に自閉スペクトラム症の診断を受けています。通常の学級に在籍しており、学力は高く、宇宙博士と呼ばれ、同級生から一目置かれる存在です。ただ、自分の家と学校での行為の区別ができていないことがあります。
例えば、ある日、下着姿でズボンを持って職員室に入ってきました。校庭で遊んでいたら汚してしまったので洗ってほしいとのことでした。あわてて運動着を着せ、校舎内は下着姿で歩かないように伝えました。
給食の時にも、好きな食べ物を友だちが食べ残していると、誰彼なくもらって食べようともします。どのように指導すれば良いのでしょう。

2.支援の方法

①先生との信頼関係を大切に

困ったことが起きたり、心配なことがあったりした時に、先生のところに来てくれるのは、信頼関係ができているからだと思います。1年生、特に自閉スペクトラム症のお子さんは、学校生活に見通しがもてないことが多いです。そうした時期に、信頼できるサポーターが身近にいることはとても心強いことです。先生が実践されているような受容的対応を今後も続けていってほしいと思います。

②手続き、手順を知らせる

ズボンが汚れてしまった時や、好きなものをもっと食べたいという時に,直接的な行動に出てしまうのですね。解決に向かおうとする気持ちがあるのですから、そこまでの手続きや手順をどのように伝えていくのかについて考えてみましょう。
ズボンの場合ですと、保護者と話し合って、替えのズボンを用意し着替えてから先生のところに持ってくるようにするといった練習(ロールプレイ)をしてみると良いと思います。
給食の場合は、おかわりをするための手続きを言葉だけではなく、絵や写真で示すなどすると良いかもしれませんね。先生が近くの席で給食を食べながら、うまくできた時にしっかりほめてあげることも効果的でしょう。大好きな先生からの褒め言葉は、何よりもうれしいことです。

③他者意識について

「他者の視線を意識する」という点がまだ十分に育っていないと考えられます。時間をかけて見守りながら、その成長をうながしていくという方法が良いと思います。機会を見ながら,どう行動したらよいのかについて理由を示しながら伝える、ということですね。「できない」行動を指摘するよりも、「少しずつできるようになっている」というメッセージを伝えていくことの方が、自信につながり意欲も高められると思います。

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この記事を書いた人

相澤雅文

京都教育大学総合教育臨床センター教授・同センター長、博士(教育学)、公認心理師・特別支援教育士SV・臨床発達心理士SV

教員や発達相談支援センターの相談員を経験してきました。幼児期から学齢期の発達相談、集団適応の難しい子どもの研究を行っています。