ゲーム行動症が疑われる生徒

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  • #相澤雅文

2018年に世界保健機関(WHO)は28年ぶりに国際疾病分類を改訂しました。
そのICD-11の中に、Gaming Disorder(仮訳:「ゲーム行動症」)が新設されました。

1.生徒の様子

中学校1年生の男子です。
小学校低学年のころからゲームが好きだったとのことです。休みの日には朝からゲームをして過ごすことも少なくありませんでした。学校の勉強がだんだん難しくなり、5年生頃から登校渋りが始まりました。中学生になってから、授業の進度が早く、休むと全くついていけない状態となりました。徐々に学校の休みが多くなり、現実逃避するように一日中ゲームに没頭するようになりました。そうするとゲームランキングが急にあがったと喜んでいました。本人はゲームによる自己肯定感の高まりから、益々のめり込むようになり、昼夜逆転となりました。当然、保護者とも顔を合わせることが少なくなってしまいました。心配した保護者がゲーム機をとりあげようとすると暴言をはいたり、暴れたりするようになりました。

2.ゲーム行動症の理解

①ゲーム行動症とは

ICD-11 6C51ゲーム行動症〈ゲーム障害〉
(和文はここでの仮の翻訳)
1.ゲームに対する制御困難(例えば、開始、頻度、強度、持続時間、終了、状況)
2.他の生活上の興味や日常の活動よりも優先されるほど、ゲームの優先順位が高い
3.否定的な結果が生じていても、ゲームを継続またはエスカレートさせる

この行動パターンは、個人、家庭、社会的、教育的、職業的またはその他の重要な機能分野において著しい支障をもたらす程度に重症である。
ゲーム行動のパターンは、持続性または挿話的かつ反復性でもよい。通常、ゲーム行動と他の特徴は、診断を下すためには少なくとも12か月にわたって明白である。ただし、すべての診断要件が満たされ症状が重い場合には、必要な期間が短くてよい。

②ゲーム行動症となる要因

・MMORPG (Massively Multiplayer Online Role-Playing Game):大多数のプレイヤーが集い、ゲーム内にコミュニティが作られます。チャットで会話しながらプレイするゲームで、友達同士で始めるとプレイが長期間継続することが多いゲームです。
・コレクション要素:ゲームの中で多様なカードを使用します。所持しているカード=強さとなる設計になっていることが多いです。課金をしてカードを購入することが可能であり、課金をして集めたのでやめられないということにもつながります。また、戦えば戦うほど自身のスキルが高まったり、判断力が磨かれたりするため、1日何十試合も行ってしまうことにつながることがあります。
・ 「チームプレイ」要素:大きなムーブメントとなっているe-スポーツは、個人対個人の種目もありますが、チーム対チームでプレイする種目も非常に活気があります。チームでプレイすることによって、メンバーそれぞれの役割分担が明確になると、より自分の役割に特化したスキル向上の意識や、チームへの貢献の意識が生まれます。

3.ゲーム行動症の支援

ゲーム行動症は新しい概念であり、現在様々な支援方法が試みられています。ゲームに夢中になり、不登校傾向となっている児童生徒は、学校に行っていないことや、勉強が遅れてしまっていることを気にしており、将来の進学や生活に不安を抱いている方が多く存在しているようです。
まずはそうした不安から開放する手立てを講じたいですね。文部科学省が進めているCOCOLOプランなどの不登校対策としての「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」の設置の状況確認や、カウンセリング等の実施など、進路相談も含め、本人がどのような将来像を描くのかに焦点をあて、本人自身の目的意識を明確にしながら、サポートを進めて行くことが大切なポイントと考えられます。

筆者紹介

相澤雅文 京都教育大学 総合教育臨床センター 教授・博士(教育学)
公認心理師・特別支援教育士SV・臨床発達心理士SV
教員や発達相談支援センターの相談員を経験してきました。幼児期から学齢期の発達相談、集団適応の難しい子どもの研究を行っています。

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