選択性かん黙(場面緘黙)の児童への対応

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  • #相澤雅文

家庭では普通にお話できるのに、学校など沢山の人がいる場所や、慣れない場所ではお話ができない子がいます。「話さない」、のではなく「話せない」のです。「笑えない」、「動けない」といったことも伴っている子もいます。不安を感じやすいことや、極度の恥ずかしがり屋、ことばの発達や社会性の課題など、その原因は一様ではありません。

1.児童の様子

小学校5年生の女児です。
保護者は、小学校の授業参観では発表する姿を見たことがないそうです。家庭では2歳下の妹や、幼稚園から一緒の友だちと、元気よく大きな声で歌ったり、はしゃぎ回ったりしているとのことです。
担任の先生は、担任と数人の決まった友だちとは、休み時間には会話があるとのことでした。授業中は話すことはありませんが、成績は問題がないので、国語の音読の時に無理をさせないなどの配慮を行ってきたとのことです。
保護者も担任も、あまり気にせずこれまで過ごしてきましたが、高学年になり、中学校への進学や、その先を考えると不安が高まってきました。

2.支援の方法

①家庭と学校との連携について

選択性かん黙(場面緘黙)は、家庭ではごく普通に話していることから、家庭での気付きが遅れる傾向があります。
また、学校では、気になる状態ではありますが、授業を進める上で特に支障とならないことや、成績に問題がない場合は、ある程度の配慮で学校生活を送ることができるので、改善に向けての特別な働きかけが行われないことがあります。
学校で友だちと楽しく話すことや、授業で自分の考えを発表する。そうした多くの子にとってのあたりまえのことが、実現できない状態にあることへの理解が必要です。自己表現したい意思があっても、自分の思いや考えを伝えられない辛さを感じている子どもたちといってよいでしょう。
早い時期から学校と家庭とで連携を取り、共通理解を図りながらアプローチを試みることは大切なことと考えます。

②不安感や緊張感を少しずつ減らす試み

学校で話すことに対する不安感や緊張感を減らすための対応を幾つか考えてみましょう。

・休み時間の少人数での係活動や、普段話せる子とのグループワークを設定してみる。
・通級指導教室や保健室の先生、スクールカウンセラーなど、個室で個別に話すことで、大人との関係を築いていく。
・無理のない状況で話す必要のある場面を作り、話す経験を増やしていく。

自身の思いや考えを伝えることによる心地よさが感じられる経験の積み重ねにより「話したい」⇒「話せるかも」⇒「話せる」といった自信につなげていきたいものです。

③自己実現に向けたサポート

クラスメートが話さないことを当たり前の事ととらえてしまい、支援や配慮、理解が行き渡りすぎていることはないでしょうか。つまり、本人が話さなくても困らない状況です。
優しい思いやりのあるクラスであることはとても良いことですが、高学年という状況を考えると、本人自身がチャレンジしようとする意識を育むことが必要な時期と考えます。
思春期にさしかかる頃は、仲間とのかかわりに悩むことや、自立していきたい自分に気付くなどの葛藤が生まれます。自分の能力や長所に気づき、自信につなげる自己理解を進めていくことで、他者と自分の思いや考えをやりとりしようとする、ポジティブな意識を育めたいと考えます。進級や進学で環境が変化する時を、自己改革のためのリセットチャンスととらえる考え方もあるのですが、現在在籍している良い雰囲気のクラスで、成功体験を重ねたいものです。

④ICTを活用したコミュニケ-ション

ICTを活用する方法を試みることも考えられます。
例えば、タブレットのオンラインミーティングソフトを活用し画面越しに顔を見ながらやりとりをしてみることなどを試みてもよいのではないでしょうか。長期の休みなどを活用し、少しずつ参加者を増やしていく等の試みも効果があるかと考えます。

筆者紹介

相澤雅文 京都教育大学 総合教育臨床センター 教授・博士(教育学)
公認心理師・特別支援教育士SV・臨床発達心理士SV
教員や発達相談支援センターの相談員を経験してきました。幼児期から学齢期の発達相談、集団適応の難しい子どもの研究を行っています。

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